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こどもたちのサッカー football fantasy

コーチの言葉と小さな選手たち

息子くんの保護者としての役割は、練習場や試合会場まで一緒に行き、コーチに挨拶をするところまでだ。チームに合流してからは、荷物の管理、ウェアの選択、食べ物の補給など、すべての判断はこどもにまかせるようにしている。なぜなら競技以外のそのような自立した判断が、強い選手になるための要素だと信じているから。どうしても必要なときはこどもやコーチの方から言ってくる。親が勝手におせっかいを焼く度にこどもは弱くなっていく。

息子くんをチームに合流させてからは、オレは保護者でなく寛容なサポータに変身する。チームの成長とクラブのコンセプト実現のために、あらゆる努力をしたいと願う献身的なサポータだ。だから息子はチームの一員で特別視はしない。あくまでも[トレーロス=チーム]の成長と勝利が最優先となる。

練習や試合中に大声をあげたいことはたくさんある。熱心なサポなら当たり前だ。でもトレーロスのコーチひとりひとりの素晴らしさを知っているので、じっと耐える。彼らはそれぞれ選手やコーチとして長年プロの経験をしてきた専門家だ。素人のオレには想像もつかない厳しい世界で生きてきたプロフェッショナルだ。オレは彼らを心底、尊敬しているので競技についての一切の口出しはしない。オレの不見識な一言がチームにとって有害になることを、彼らの指導を見ながら学んだからだ。

コーチはチーム全体のバランスをみながら指導をしている。楽器のアンサンブルをまとめる指揮者のようなものだ。訓練された耳、専門の知識をもとに、デリケートな音楽を創り出すような作業だ。

そして、こどもたち。

彼らはチームに合流した瞬間から、子どもではなく小さな選手なんだ。彼らはコーチたちと一緒に、未熟な技術と限られた視野のなかで、勝つための懸命なチャレンジをはじめる。不器用な足で、伸び縮みするボールを蹴りあい、何度も敵に邪魔され失敗し、コーチの声に耳を傾け、仲間と怒鳴りあいながら、つぎこそうまくやろうと、<チーム>を作ろうとしている。

オレはサポータだからよく知っている。選手とコーチの関係には立ち入ってはいけないのだ。そこは傍観者と当事者、あきらかに明白な真っ白いラインがひかれるべき場所なのだ。

心を落ち着けて試合中のコーチの声を聞いてほしい。さりげない一言にどれほどの内容が含まれているか。彼らのフットボールへの経験と愛情が凝縮された、小さな選手たちへの大事なメッセージ。オレの怒号でそれを掻き消しては絶対にいけないのだ。

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負け試合のあとにコーチからアドバイスを受けたと、風呂場で息子くんが言っていた。奥さんの話しによると、泣きながらうなづいていたらしい。オレはサポータではなく、保護者として、あおのパパとして、息子を身びいきに、精いっぱい励ました。

つぎの試合はがんばろうぜと。