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Archive for the ‘football fantasy’ Category

20140225-午後071109.jpg

荒川河川敷のグラウンドを土手の上から眺める。所々禿げた緑の芝。大雑把に引かれた白線。8人制のピッチが、つなげられたドミノのように縦横3面に並ぶ。その中を小さな選手たちが所狭しとボールを追いかけている。

遠目から息子くんを探す。あいつのチームはシャツもパンツもソックスも、みんな真っ白、純白だ。

色とりどりのカラフルなユニフォームがボールとともに乱舞する中で、一番奥のピッチに白い軍団を見つけた。

唯一背番号だけが赤の、見慣れた36番はベンチに座って出番を待っていた。

おれは土手を降りてグラウンドへ向かう。コーナーフラッグが風にそよぐ。心地よい初夏の風だ。

短いホイッスルが鳴り、前半を終えた子供たちは、芝生に座りコーチと話しはじめた。

ベンチの後ろで見学をしていた保護者仲間が、おれに気づいて手を振ってくれた。

小さく手を振り返すが、なんとなく合流するのがもったいなくて、ゴール裏にそのまま腰を下ろした。

まぶしい太陽が繁茂した草を照らす。若葉の新鮮な匂いがする。座ってみてはじめて気づいた。子供の目の高さでグラウンドを見渡すと、一面、白い蝶と花の世界だ。

モンシロチョウとクローバー。

無理して来てよかった。
さっきまで仕事で伊豆にいたのだ。

息子くんからは何度もこの試合は見に来てほしいとせがまれていたが、どうしてはもはずせない事情があり、調整がつかなかった。

しかし、思いのほか早く仕事を終えることができ、すぐに荷物をまとめた。電車の乗り合わせもよく、ホームに上がるとすぐこだまが来た。

グラウンドにいる妻に「行けるかも」と表題だけのメールをした。

⚽︎

こどもたちが立ち上がった。
選手が出てきた。

後半が始まる。

真っ白な息子くんは左サイドバックにいた。

よかった。
試合に出られたんだ。

あいつなりに何か決意があったんだな。間に合ってよかった。

純白の小さな選手たちはみんな、夢中でピッチを走り回る。

息子くんがクローバーの敷きつめられたタッチライン沿いを、オーバーラップする度に、シロツメクサの花が揺れ、モンシロチョウが飛び舞った。

がんばれ、息子くん。

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20131204-午後055239.jpg

羽はすっかり伸びた。
堅く張りのある翼に成長した。
付け根もしっかりしてきた。

息子くんは手のひらにキアゲハを乗せた。

キアゲハは羽を開いたり閉じたりしながら、指を乗り越え、腕をよじ登り、動きまわる。

バランスを崩してパタパタと羽ばたく。

そのまままっすぐ、窓際のカーテンまで飛んだ。部屋の中で、何かにぶつからないかとハラハラする。

空気をつかむ感じがわかってきたようだ。

「もう飛べそうだね」

息子くんは名残惜しそうに言った。

「パパっ、写真撮っといて」

おれは携帯を出して、せわしなく動く蝶と息子くんを撮った。ふたりともじっとしてるのが苦手なので、ピントが合わず苦労した。

息子くんは気持ちを振り切るように、深呼吸をして、両手で大きく窓を開けた。

春のような穏やかな日。
風もない。
青い空がベランダの向こうに広がる。
雑木林の枝には鳥が止まり、仲間と賑やかに囀りあっている。

今年、最後のキアゲハの羽化。

仲間たちはとっくにこの世にあらわれて、夏を謳歌し、我が物顔に石神井公園の空を飛び回っただろう。

遅れてきたキミは、世界を満喫できるだろうか?冬になる前に蝶としての命を愉しみ、後世に生命をつなげることができるのだろうか?

息子くんは、ベランダから腕を伸ばし、人差し指を空に向けた。指の向こうには、真っ青な雲ひとつない自由が広がってる。

未知の空間に向かって、キアゲハは腕を登って行った。

先端にたどり着き、もう道がないことを知ると、思い切りよく、強く羽ばたいた。

軽い体は一度落下したが、羽が空気の塊をとらえ、一度、二度不器用に羽ばたくと、風を掴み、飛び上がった。

ひらひらと不安定な、でも希望をまとったキアゲハのファーストフライトだった。

そのとき。

けたたましい鳥の鳴き声が聞こえた。

視野の端から、何者かが争うように飛んできて、息子くんの目の前で反転し、乱暴な羽ばたき音と灰色の影だけを残して、飛んでった。

キアゲハは、もうそこにはいなかった。

争っていた灰色の影は、目の前の電線に止まり、手に入れた獲物を奪い合い、騒がしく鳴いていた。

キアゲハの羽の破片が風に舞った。

「鳥に食われた…」

息子くんは言葉を失った。

電線に止まった鳥を睨みつけ、拳を強く握って、ただ耐えていた。

空はどこまでも青く、何事もなかったような穏やかな一日が続いていた。

ベランダの物干しには、アサガオの蔓が巻きついていた。蔓の先には薄紫と白の花が、太陽にファンファーレを吹き奏でるように咲いていた。

おれはかける言葉を探した。

「自然は…」とか、「生き物は…」とか、教科書にのってる感情のかけらもない一般論は、今の息子くんには通用しない。

おれらの何十倍もの集中力と愛情で、自分の手で育て上げた小さな命…。

あの不条理を飲みこむには、陳腐な言葉は何の役にも立たない。生まれて初めて体験した本物の哀しみを、そのまま受け入れるしかないのだ。

しばらくして、やっと口を開いた。

「あいつ、さなぎからかえって、この空、10秒しか飛んでないのに…」

息子くんは吐き捨てるように言った。

「おれは鳥が憎い。ぶち殺してやりたい」

涙も出ないほどの憎悪が、息子くんからあふれ出た。

ママが言った。

「悔しいけどファーブルのおじさんが言ってたの思い出したわ。虫のほとんどは、他の生き物に喰われるために生まれてくるって。何千匹のうちの、生き残った数匹だけが、子孫を残していくって」

おれは何を話していいのか、途方にくれた。

たまたま目の前に浮かんでいた慰めの言葉を、息子くんにそっと渡してみた。

「また育てような。春が来たらもっともっと虫を取りに行こうな。飼えきれないくらいたくさん取ろうな」

息子くんは窓の外をじっと見ていた。

ママが聞いた。

「来年、幼虫見つけたら、また飼うの?」

息子くんは全身全霊で即答した。

「飼う!ぜってえっ、飼う!つぎは絶対、鳥にやられないように逃がす!!」

マンションの外まで聞こえるほどの、激しい息子くんの怒り声が響いた。

驚いた鳥は、電線から逃げるように飛んで行った。

(おわり)

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20131202-午後071153.jpg

その日。

春のように暖かい土曜日。

前の週、厳冬を予感させる底冷えが続いたので、ほっと一息つけた。秋は挨拶だけして、瞬く間に通り過ぎようとしていた。

午前中は杉並のグラウンドでサッカーの試合があった。息子くんも少しは思った通りのプレイができたようで、嬉しそうな顔で帰宅した。

昼ごはんを食べ、部屋の模様替えでもしようかと掃除を始めたとき、息子くんが大声で叫んだ。

「○×△□っ!」

慌てていて、何を言ってるやら。

「どしたの?」
「さなぎが!キアゲハが出てきた!」

ママも台所から出てきた。

「さなぎ、生きてたんだ?」

おれも妻も、ゴミのように動かないさなぎのことはすっかり忘れていた。

「ママっ、ミニトマトの中だと羽曲がっちゃう。蓋を取って!外に、だっ、出して!」
「慌てないで、じぶんでやればいいでしょ?あんたの方が上手いんだから」
「そっか!」

やっと心拍が落ち着いてきたようだ。

キアゲハはまだ蝶には見えなかった。弱々しい羽虫のようだった。足もまだうまく動かせず、よろよろと不安定に歩いていた。

息子くんが器用に容器から取り出し、レースのカーテンに誘導すると、やっと頭を上にしてぶら下がった。

羽はまだ伸びきっていない。くしゃくしゃと丸まったままだ。空気の抜けたビーチマットのようだった。

「このまま固まっちゃったらどうしよう?」

息子くんが心配気な声でつぶやく。

「たぶん大丈夫だよ。羽に葉脈みたいなのがあるだろ?ここに体液を送りこんで羽を広げるんだよ」

思いつきで安心させる。

キアゲハはカーテンにぶら下がったまま、もぞもぞと足を動かしたり、口の巻きストローを伸ばしたり縮めたり、触角を動かしたりと、単純な動作を繰り返していた。手に入れたばかりの、体の動かし方を試しているようだった。

すぐ隣で、鼻息がかかるくらいの距離で、息子くんとおれが観察していても、警戒感のかけらもない。それよりも自分の体を点検するのに一所懸命だ。

それにしても、こんな季節に。
暖かくて春と間違えてしまったのか。

時間をかけて、少しずつ羽が伸びてきた。キアゲハ特有のカスタードクリームのような黄色と黒い縁、赤褐色と青の紋が、大きな三角の羽を彩る。

おれもこの模様がひらひらするのを見て、子供時代は興奮したものだ。モンシロチョウやシジミチョウ、イチモンジセセリは簡単に取れたが、キアゲハとタテハチョウは高嶺の花だったな。なかなか取れなかった。取れた日は一日幸せだったな。

となりで無言で見つめている息子くんも、今、あの頃のおれの気持ちを、なぞっているのだろうか?男子はみんな一度は通る道だ。

間近に見る、完成しつつあるキアゲハの精密さ、美しさ、絶妙な形と色には息を呑む。

漆黒の複眼。
細く折れそうに長く伸びた触覚。
微細な可動模型のような脚。
柔らかく膨らんだ綿毛で覆われた腹。
色鉛筆の粉で丹念に描きこんだような羽。

ひとつの傷も汚れもない、成虫になったばかりのキアゲハ。

その完璧な美しさには言葉は無力だ。実物以外、この濃密さを体験することはできない。テレビの画面や標本箱のガラス越しでない、目の前に実在する、触ろうと思えば壊すこともできる、その脆い形と色の奇跡。

それが生きていて、羽を開いたり閉じたりしている。

生き物ってすごい。

誰がこんな完璧なものを作り上げたのだろうか?

息子くんも、目の前の小さなスペクタクルに圧倒されていた。

ふと思った。

今、目の前のこの完璧な個体を、そのまま三角紙に挟みこんで、冷蔵庫に入れてしまえば、生まれたばかりの小さな炎はそっと消えて、彼は一片の欠けもない標本を手に入れられる。触覚も羽も、曲がりもキズもひとつもないものを。

息子くんに聞いてみた。

「どうする?」

一呼吸おいて

「いい。観察したら逃がす」

と答えた。

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天気予報が聞きなれない言葉を繰り返していた。

「過去に経験のないほどの豪雨となります。警報が出たらすみやかに命を守る行動を取って下さい」

台風26号が関東地方に近づいている。西日本では洪水や浸水など被害が出はじめていた。

息子くんは直ちに虫たちの命を守る行動を取った。玄関の外に置いてあったコオロギやカマキリ、コクワガタの飼育ケースを部屋の中に入れた。台風が通過するまでとママに交渉したようだ。ただでさえ生きもののいるリビングに、虫たちの難民キャンプがあらわれた。

明け方には台風が通過するとの予報通り、土砂降りの雨音に目が覚めた。横殴りの雨がガラスをたたく。風圧で窓を揺さぶられる。雑木林の大きな木や竹林が、強風に煽られ、豪雨に枝葉を揉まれる。虫たちを入れておいてよかった。息子くんの判断は正しかった。

いつもより早く息子くんが起きてきた。

「台風来た?」
「これからすごいのが来るよ」

窓から外を見ようとする。

「全然見えないじゃん」
「土砂降りだからね」
「会社行けるの?」
「行くしかないな。お前学校は?」
「休み」

ソファーに座った息子くんは、さっそく図鑑のページをめくりながら、虫の世界に行ってしまった。寝起きのすっきりした頭に、挿し絵の里山の風景が広がる。来年の春どこで何を採るかイメージトレーニングでもしているのだろう。

ネットで読んだ聞きかじりの話をしてみた。

「さなぎってさあ」

図鑑から顔を上げた。虫の話なので乗ってきた。

「なかで何が起こってると思う?」
「起こってるって?」
「幼虫が殻みたいに固くなって、破って出てくるときは、形が全然変わってるじゃん?足とか羽が生えててさ」
「そだね」
「なかでどうやって羽付けるの?」

息子くんは無言で考えている。かなり具体的に想像しているようだ。

「角みたいに生えてくるんだよ」
「あんなに大きいものが?」
「わかんないよ」
「パパも詳しいことわかんないけど、ネットで調べたらね、一度溶けるらしいよ」
「溶ける?」
「そう。例えばお前が幼虫だとするじゃん。ある日、寝袋に入るんだよ。そしたら眠くなるの。少ししたらその中で溶けちゃうんだよ」
「…」
「腕とか、足とか、顔とかも溶けちゃう。内臓や骨もドロドロに」
「目玉とか、脳も?」
「そう。で、お前はドロドロのスープみたいになる」
「生きてるの?」
「たぶん生きてるんだろうな」
「それで?」
「溶けた液はもともと体を作っていたものだから、あるきっかけでまた固まり始める。それが新しい体になる」
「きっかけって?」
「ディーエヌエーかな、よくわかんないけど」
「グロくね?」
「分子レベルでレゴを組み直すようなもんだろうね」
「本当なのその話?」
「わかんない。ファーブルのおじさんに聞いてみてよ。おれも知りたい」

息子くんは怪訝な顔をして、ミニトマトのパックを覗きこんだ。

「ほんとかなー、信じられないな。幼虫が溶けるのか?」

もうすぐママが起きてくる。
ママは今も布団の中で溶けたままだ。

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幼虫は体に似合わず葉っぱをもしゃもしゃ食べる。朝、雑木林からアシタバの葉を取ってきて入れておくと、帰るころには破片になっている。息子くんはまめに葉っぱをむしりに行く。実によく世話をする。我が家の生きもの係りだ。

幼虫は相変わらずド派手な服を着て、ミニトマトのパックのなかをもぞもぞしている。

幼虫が呼吸できないからと、おれが蓋に穴を開けようとしたら、断固として止められた。

「空気吸えなくて死んじゃうよ」
「死なないよ!大丈夫なんだよ、昆虫は!」
「だって昆虫だって空気吸うだろう。窒息しちゃうよ」
「大丈夫だって。虫はそんなに酸素吸わないのっ!」
「なんでそんなこと知ってる?」
「ファーブルのおじさんが言ってたのっ!」

最近は図鑑や本などの知識だけでなく、経験した人でないと知らないような知恵が付いてきた。

この前も家に帰ったら、テーブルの上で蝶に砂糖水を吸わせていた。器用に羽も触らず、そっと胸を挟み、爪楊枝で口の蔓巻きストローを伸ばし、甘い水のありかを教えていた。

「おまえ、どこでそんな技教わってきたの?」
「ファーブルの採集教室」

標本作りから始まり、採集、飼育、観察など、昆虫の魅力を味わい尽くすノウハウは、ファーブルのおじさんたちから教えてもらっていた。

子供より子供の目をした、捕虫網を持ったおじさんたちが、息子くんの生きた教科書だった。

今朝も起きて最初にしたのがアカハライモリとカメの世話。水槽のカージナルテトラに餌をやると、裏の雑木林に葉っぱを取りに行く。

小さな生き物たちの世話が終わってから、自分の顔を洗い、朝食を取る。あっという間に登校時間だ。今日は土曜日だけど学校がある日だ。

「行ってきまーす。パパっ、帰ってきたら石神井公園行くからね。準備しておいてね!」

ドアが閉まると、静寂が訪れる。

「あの人も好きだねー。なーにが、楽しいんだか?」

笑いながら妻が言う。ママが虫嫌いの女性でなくてよかったな。

気がつけばうちの部屋は、飼育ケースや水槽、餌や道具が散らかりペットショップのようだ。

「さあ、掃除始めるよ。洗濯するから寝間着、着替えてね」

快晴の土曜日。気温も暖かい。

窓を開けたら空が真っ青で、蝶がひらひら飛んでいた。虫捕り日和だ。

床に置いてあったミニトマトの容器をテーブルに移動する。このままでは掃除機のじゃまになる。

透明な小さな空間の中で、キアゲハの幼虫は何かを探しているようだ。

蓋を開けてよく見てみる。

近くで見ると鮮やかな模様にあらためて驚く。どうしてこんな色、柄になるのだろうか?不思議だな。幼虫に顔を近づけてみて、少しだけ息子くんの気持ちがわかった気がした。

「それにしても、かわいいのかね?こんな毛虫くんが」

人差し指で幼虫をつついてみる。

幼虫は身震いをして、おれを睨みつけ、オレンジのツノを出した。

生意気に威嚇してるのだ。

部屋の中に、野性味の強い匂いが漂った。

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息子くんが朝のジョギングから帰ってきた。暑かった夏もすっかり落ちついて、早朝は秋の肌寒ささえ感じられた。

いつもならマンションの駐輪場からピンポンを押して入ってくるのだが、今日はなかなか部屋に戻ってこない。

部屋の外に出て、三階の踊り場から駐輪場を見下ろしてみる。

いた。

隣の雑木林からフェンスをはみ出したアシタバの葉に貼り付いている。

「何やってるの?」

上から声をかけてみた。

「キアゲハの幼虫!」

興奮気味に答える息子くん。たぶん心拍が上がってるのは、走ったからではなく幼虫のせいだ。

「パパ、ミニトマトのパック持ってきて!」

結構焦ってる。

部屋に戻って妻に話すと、これでしょ、と呆れ顔だ。スーパーでミニトマトがパックされてる、丸い蓋つきの透明な入れ物を渡された。最近、我が家の夕食にやたらミニトマトが出たのはこのせいか。

階段を降り、息子くんに手渡した。

「何に使うの?」
「幼虫入れんの」

いきなり掴んで入れるのかと思ったら、少し離れたところで葉っぱをむしり取り、容器に入れてから、今度は幼虫が這っている葉っぱを枝ごとむしり、入れて蓋をした。

ホッとした表情の息子くん。まるで不発弾の処理でもしてるような緊張感だ。

部屋に戻ると蓋を開けて観察しはじめる。

「かわいいねーっ」と頬ずりしそうな勢いだ。

幼虫は黄緑と黒のストライプに、黄色とオレンジの鮮やかな点が並ぶ。ド派手な衣装をまとった原宿のストリートキッズのようだ。

「アゲハって、幼虫もきれいだね」
「キアゲハっ!アゲハじゃないの!」
「アゲハとキアゲハって違うの?」
「違うよ!アシタバに来るのがキアゲハで、山椒とか柑橘類がアゲハ」

小数点の割り算は面倒くさがってやらないくせに、生き物の事になるとやたら詳しい。

「なんでそんなこと知ってるの?」
「図鑑に載ってるよ」

答えるのも面倒という感じ。もうおれの言う事なんか聞いちゃいない。

「さんれーちゅーかな?早くサナギにならないかなー」

腹ばいになって幼虫を眺めている息子くん。今日は平日。学校があるのを覚えていてくれてるといいのだが。

また我が家に新しい家族が増えてしまった。

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その瞬間、TKIくんは太鼓を持ったままゴール裏を走りまわっていた。すでに太鼓をひとつぶち壊しているが、気に留めもせず、ピーキーな甲高い裏声で絶叫し、太鼓を乱打していた。

最前列には重鎮、口ハドさんと蒲鉾屋が白眼をむいて、タオルを振り回し、夜空高く掲げ、跳ねながら雄叫びをあげていた。

見知った顔も知らない顔も、旧知の親友のように握手をし、ハイタッチをし、抱き合い、咆哮していた。

ゴールの中には白いユニの選手が二人寝転がっていて、そばにボールが転がっていた。間違いなくインゴールだ。

アディショナルタイムは終わりかけ、このスローインが最後のワンプレイになるはずだった。

田仲智紀27がボールを受けると、ワンタッチでボールを相手から遠ざけ、ペナルティエリアに切り込んできた。無難なプレイを予想していたおれらは度肝を抜かれた。町田ゼルビアの胸ぐらを掴んで、背中ごと壁に押し付け、睨みつけるような、そんな凶暴なドリブルだ。

ラインギリギリまでえぐってきた田仲は、相手が怯えて、堪えきれずマークを剥がした瞬間、ゴール前にボールを浮かせた。

そこから記憶がない。

真っ白な感情が爆発し、ただただ喜びに包まれていた。

雨はもう止んでいて、西が丘サッカー場のピッチが照明に白くぼんやりと照らされていた。電光掲示板には、東京23の下に<1>という文字が輝いていた。

間も無くホイッスルがなり、この日二度目の喜びの大波が押し寄せてきた。西が丘が真っ白な多幸感に包まれた。みんなの笑顔がきらきら輝いていた。選手もスタッフもサポーターも、全員がひとつになって闘い抜いた。

おれらはとうとうあの町田ゼルビアを倒した!
おれらは奇跡を目の当たりにした。

あと二つ。
夢の扉を開けるには三つの鍵が必要だ。
一つ目の鍵は町田が持っていた。
二つ目の鍵は日体大が持っている。
三つ目の、最後の鍵はおそらく横河武蔵野だ。

なあ、みんな。
フットボールの奇跡が見たいんだったら、グランドへ来いよ。テレビでユナイテッドなんか見てる場合じゃないぜ。

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movie by Sato

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