荒川河川敷のグラウンドを土手の上から眺める。所々禿げた緑の芝。大雑把に引かれた白線。8人制のピッチが、つなげられたドミノのように縦横3面に並ぶ。その中を小さな選手たちが所狭しとボールを追いかけている。
遠目から息子くんを探す。あいつのチームはシャツもパンツもソックスも、みんな真っ白、純白だ。
色とりどりのカラフルなユニフォームがボールとともに乱舞する中で、一番奥のピッチに白い軍団を見つけた。
唯一背番号だけが赤の、見慣れた36番はベンチに座って出番を待っていた。
おれは土手を降りてグラウンドへ向かう。コーナーフラッグが風にそよぐ。心地よい初夏の風だ。
短いホイッスルが鳴り、前半を終えた子供たちは、芝生に座りコーチと話しはじめた。
ベンチの後ろで見学をしていた保護者仲間が、おれに気づいて手を振ってくれた。
小さく手を振り返すが、なんとなく合流するのがもったいなくて、ゴール裏にそのまま腰を下ろした。
まぶしい太陽が繁茂した草を照らす。若葉の新鮮な匂いがする。座ってみてはじめて気づいた。子供の目の高さでグラウンドを見渡すと、一面、白い蝶と花の世界だ。
モンシロチョウとクローバー。
無理して来てよかった。
さっきまで仕事で伊豆にいたのだ。
息子くんからは何度もこの試合は見に来てほしいとせがまれていたが、どうしてはもはずせない事情があり、調整がつかなかった。
しかし、思いのほか早く仕事を終えることができ、すぐに荷物をまとめた。電車の乗り合わせもよく、ホームに上がるとすぐこだまが来た。
グラウンドにいる妻に「行けるかも」と表題だけのメールをした。
⚽︎
こどもたちが立ち上がった。
選手が出てきた。
後半が始まる。
真っ白な息子くんは左サイドバックにいた。
よかった。
試合に出られたんだ。
あいつなりに何か決意があったんだな。間に合ってよかった。
純白の小さな選手たちはみんな、夢中でピッチを走り回る。
息子くんがクローバーの敷きつめられたタッチライン沿いを、オーバーラップする度に、シロツメクサの花が揺れ、モンシロチョウが飛び舞った。
がんばれ、息子くん。