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Archive for the ‘音楽’ Category

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煙草はもう二十年も前にやめた。いまではどちらかといえば匂いを避けるくらいに、煙草は好きではない。

なのに最高にかっこいい音楽を探してたら、タバコジュースというバンドにぶち当たってしまった。

嫌なバンド名だなというのが最初の印象だった。でも音はおれの趣味ど真ん中だった。

何回かライブを見に行って出音を気に入って、そのうちブレイクするんだろうなと思ってたら、突然の活動休止。不景気で食えないんだなと本当に残念だった。

半分諦めていたら二年後に活動再開。またあの音が聴けるかとわくわくしたよ。

休止前の最後のライブをやった新代田feverで再開ライブを見て、彼らの音が変わってなくてほっとした。

今夜はクリスマスギグ。タバコノケムリだ。

煙草の匂いは苦手だけど、タバコのフレーバーならいつまでもOK。

さあ、もうすぐライブがはじまるぜ。

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こんなことってあるんだな。

スタートの直前、なんとなく釈然としないヒルクライマーたちに、乗鞍岳の神様がちいさなプレゼントをくれた。

七色のアーチ。

昨夜の屋根を叩く豪雨も、山に鳴り響く雷鳴も、直前の天候判断によるコース変更も、スタート待ちの激しい通り雨も、みんな忘れた。

虹のスタートゲート。

みんなざわついていた。

神様。

タイミングとあらわれた場所が完璧過ぎるよ。

数分で虹は消えた。

ほんとこんなことってあるんだな。

さ、行くか。

15kmの短縮コースとはいえ、乗鞍はきついし。

そうそう。

前日のイベントにも、もうひとつ虹があらわれた。

高橋あず美

乗鞍出身のシンガー&ソングライター。天候に振り回されたサイクリストたちを、7色のファルセットで慰め励ましてくれた。素晴らしいシンガーです。乗鞍が生んだダイヤの原石です。

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素敵なプロポーズ!いい仲間たちに囲まれて幸せです。

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時間はない。
できることは限られている。

今ある素材と演奏技術で録音するしかない。頑張らないとできないことは、あえて追いかけない。利き足インサイドだけでゲームを作るようなものか。

表現したいのは、グランドの広さ、ボールの疾走感、子供達の躍動感、コーチや応援する保護者の高揚感、トレーロスとしての結束感だ。

新しい仲間、まつくんがアドバイスしてくれた。

「時間がないので…使える週末は2回しかないので、ミニマムで行きましょう。構成はデモのままで行けるのではないかっ、と。まずはリズムを固めましょう」

まつくんは、本職はドラマーだ。普段はフリーランスでプログラマのような仕事をして、週末音楽をする。仕事を終えてから、おれの歌い散らかしたデモを聞き取り、リズムトラックを作ってくれた。

いよいよスタジオ入りだ。

○ ○ ○

1週目はベーシックトラックの録音だ。楽器は基本3ピース。ドラム、シンセベース、アコースティックギター。この楽器構成で背骨を作る。

まつくんはリズムパターンをいくつか準備してくれた。跳ねてるのとか、四つ打ちで踊れるやつとか。さんざん試して、ドリブルの疾走感が出るからと、シンプルな8ビートを選んだ。

録音がはじまる。

ノイズを避けるために蛍光灯を消す。薄暗い部屋のなかで、まつくんの顔が、Macの液晶にぼんやり照らされる。床には手術室のようにコードが這い回る。

おれはギターを抱えてヘッドホンをかぶる。洞窟のなかに一人で入ったみたいだ。

ギターを録音するのはじめてだった。コードを取る程度でしか弾けないのに、まともに録れるのだろうか?

暗闇のなかから、コツコツと八つカウントが聞こえた。ビートが始まると、おれは必死にギターを掻き鳴らした。テンポをキープするのに精一杯だ。短い曲はすぐに終わった。

「どう?」
「もう少しリラックスしたほうがいいかも」
「おれギター下手だな」
「練習ですね」

スタジオを使える時間は3時間だ。ギターに使えるのはあと2〜3テイク。

「アップストロークを強調したら、裏打ち感がでてのりがよくなるかもです」
「こんな感じ?」

ピックを硬いのに変えて、弾き方を変えてみる。

「いい感じ。そのノリ忘れないで。じゃ、テイク2行ってみますか?」

何度か試行錯誤しながら、なんとか伴奏に使えそうな音が録れた。

「じゃあ、次は歌入れちゃいますか?」

おれはギターを脱ぎ捨てた。楽器というのは本当に不自由だ。思ってる音と、でてくる音がこんなに違うとは。プレイヤーの人はすごい。

できつつあるアンサンブルの上に、歌を重ねる。リズムがしっかりすると、歌のニュアンスが効果的になる。例えば語尾をすぱっと切ると、キビキビした感じになる。切り返しの効いたフェイントのようだ。エラシコだ。疾走してる雰囲気がでてきた。

歌はほぼ一発OK。

掛け合いのコーラスを声音を変えて一人でいれてみる。物足りないのでまつくんにも参加してもらう。声の混じり具合が気持ちいい。ここに子供達や大人の声がかぶさるところを想像する。

空いた時間でオルガンのフレーズを入れて、最初のレコーディングが終わった。

スタジオの近くの店で遅い昼食。

「お疲れ様です!」
「来週もよろしくお願いします」

駅で別れるとどっと疲れが出てきた。

家に帰ってソファに座ると、猛烈な眠気が襲ってきた。

録音て疲れるんだな。

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週末の午前。

階段の踊り場にギターとノートを持って一人籠もる。

お蔵入りさせておいたトレーロスの曲を、引っ張り出して弾いてみる。

ギターの弦が和音を響かせ、そのうねりの波にメロディを乗せてみる。歌詞の意味を考えながら歌ってみる。

緑のグランドを走る子供たち。真っ白なボール。青いジャージのコーチ。ピッチサイドの保護者や子供たちの歓声。劣勢の後の逆転。疾走感、緊迫感、解放感、一体感。

大丈夫まだ生きてる!力もある。感触はいい。なんとなくできそうな気もしてきた。

フットボールも、音楽も、人間の想像力の産物だ。

ラブソングを作る自信も、興味もまったくないけど、グランドの風景や選手やサポーターの心象風景、試合の高揚感や失望感を表現することは好きだし、楽しい。

「おまえ、やりきる自信あんの?」

歌に聞いてみる。
生簀から出てきたばかりの魚のようにピクピク元気だ。

おれは覚悟を決めた。

音源制作ができそうな友人に声をかけた。何年か前にトライアルをお願いして断られた彼だ。

デモ音源を送り、聞いてもらった。

おれの事情を察知してくれたのか、彼のサッカー好きが幸いしたのか、興味を示し快諾してくれた。

仲間が増えた。
ドラクエなら、ここでファンファーレがなるところだ。

無事スタートは切れそうだ。

さっそく簡単なアレンジ案を送る。

音楽もサッカーと一緒で、大事なのは仲間だ。一人でできることなんて、たかがしれてる。

やり切るには、ゴールを共有する仲間が必要だ。

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「この曲コパで使うんで、もう少しいい音でもらえませんか?」

飲んでいたグラスを落としそうになった。ビールがあわてて白い泡を吹いた。目の前でクラブの代表コーチが、にっこりと笑っていた。トレーロスの新体制発表会、キックオフパーティーの打ち合わせの最中の出来事だ。

はじめはこの人何言ってるんだろうと、聞こえないふりをしてそっぽを向いていたら、たたみかけてきた。

「デモテープがだめなら、ギター持って歌ってくれませんか?」
「いやー、無理っしょ。だってコパって平日じゃないすか?おれ息子くんのU10だって見れないんすよ」
「困りましたね」

ちょっと待ってくださいよ。困ってるのはおれのほうですよ。

すーっと酔いがさめた。

コーチの隣に座っていたS藤さんが無責任に煽る。

「いやー、光栄だな。この歌がコパのスタンドで流れるのか。すごいなー。大丈夫、この人は約束は守る人です。はい、決まり!」

ギャラリーはニヤニヤ。おれだけヒヤヒヤ。まだやるなんて一言も言ってないのを盾に、頭のなかで冷静に計算する。

あるのはギター一本で歌い散らかした音源のみ。ここからアレンジやって、レコーディングだと?残された時間は3週間。機材はどうすんだ?レコーディングはどこでどうやるんだ?

「いやー、冷静に考えて無理ですよ。時間もないし」
「いやいや、できるよ。無理なんてないない。あおだってこの前、学年上の試合で頑張ったんだから大丈夫!」

放火魔として名を馳せるK林さんが、理解不能な理由で押し付けてくる。

「じゃ、作るということで乾杯!」

おれ以外の全員が一致して、音源化が決まってしまった。数的不利は失点の最大要因だった。

さあ、困った。

何をどうすればいいのか?

会は終わり、みなさんほろよいかげんでの帰宅。

駅のホームで虚空を見つめる。なかまたちの楽しげなおしゃべりはもう聞こえない。

おれは頭100%フル稼働で、解決方法を模索する。

眠れないじゃないか。

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うちのマンションの踊り場は、魔法のスペースだ。

三階低層マンションの非常階段は、梅雨時の子供達の遊び場になったり、デュエルマのバトルフィールドになったり、家を追い出されたパパたちの談笑室になったり、ローラー台を置けばロードバイクのトレーニングルームになる。この前は、けん玉の教室の練習場にだってなった。お隣のパパさんが公式の認定試験をやっていたのには驚いた。

○ ○ ○

この日は音楽スタジオだ。

日曜の午後、お隣さんが出かけてるのを見計らって、ギターをもって踊り場に行く。

三階吹き抜けの空間は、音がぐわんぐわん回るけど、イメージを広げやすく、アイディアを練るにはいい場所だ。

ここでトレーロスの歌を録音してみる。

スペイン語の歌詞を日本語に置き換えるだけで、曲の雰囲気はガラッと変わる。原曲のモチーフを活かしつつも、トレーロスのこどもたちの、生き生きとした世界観が表現できるように、何度も歌詞を確かめ、修正し、デモを録り直す。

創作中は自分に酔っているので、良し悪しの判断ができなくなる。山ほどデモを録り、翌日冷えた耳で聞き直す。

他人の演奏を聞いてるようだ。下手だなと何度も舌打ちする。

でも時々、偶然いいフレーズが出てくる。その時の気分は天文学者だ。新しい天体を発見した、研究者の気持ちだ。

そのフレーズにフォーカスをあて、何度も何度も聞き返し、なんでいいと思ったのか、要素を分析する。

毎回同じ演奏ができない下手プレイヤーだけの特権だ。

そんなことを繰り返し、少しずつメロディと歌詞を修正し、譜割りを固めて行く。地道地道。道路の舗装作業のような丹念な作業だ。

○ ○ ○

気づけば踊り場の窓の向こうは夕焼けになっていた。

石神井公園から帰ってきたお隣さんのこどもたちが、ギターの音を聞きつけて襲来してくる。何かおもしろいことはないかと、うろつきまわる飢えたグレムリンたち。咆哮をあげながら階段をドタドタ上ってくる。

「あおいくんのパパ、何やってるのーーー?」

踊り場にでかい笑い声と足音の残響が響く。

おれは襲われる前に、録音ボタンを止めて、ギターを抱えて、安全な部屋に避難する。

曲はこうしてできあがる。

こういう作り方って、ひょっとしておれだけなのだろうか?

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