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Archive for 2014年8月

昼間の茹だるような暑さも、日が落ちると、少しは過ごしやすくなる。

「あたし、公園走るけど行く?」

奥さんが誘ってきた。

めんどうだなという気持ち半分。でも身体動かした方が楽かなと思い直し、付き合うことに決めた。

ドライメッシュのシャツに着替え、アシックスを履いて、マンションを出た。

歩くのと変わらない速度で走る。すぐ汗が吹き出てきた。

図書館に本が届いてるはずだ。裏道を通って行こう。

途中、雑木林に囲まれた神社から、楽器の音が聞こえてきた。いつもの雅楽器でなく、ガットギターとベースの音だ。

参道には人が溢れてる。
お祭り?

でもちょっと雰囲気が違う。

どちらかというとフリーマーケットと言うか、しゃれた街の、若い人が催す商店街イベントのよう。

境内に出店が並ぶ。

たこ焼きとか、綿菓子とか、金魚すくいとか、お祭りにありがちな縁日ではなく、ベルギービールやワイン、フレンチ風惣菜、食器、古本など、吉祥寺のハモニカ横丁みたいなこだわり屋台が並ぶ。

照明にも気が配られていて、通り道には紐電球がぶら下がり、人の溜まるところにはキャンドルが置かれ、影がゆらゆる揺れている。

神社の雰囲気にぴったりだ。神様って、こういうところにいるんだよな。

舞台に人が出てきた。

アコースティックギターと歌い手さんのデュオ。客席の隣にPAさんもいて、軽いサウンドチェックをする。

ギターさんが音色を確かめるまま、自然と曲に入って行った。

抑えられた音量に、ボサノヴァ風な、爽やかなテンションノートのフレーバーが香るギター。

女性の歌い手さんは、囁くようなウィスパーボイスで、ソウル風裏声を織り交ぜながら、丁寧にメロディと詩を空間に浮かべていく。

二人の穏やかな気持ちが舞台からこぼれ落ちてきて、ドライアイスの白煙のように聴き手を包み込む。

みんないい顔をしている。

大事なパートになると、音量を下げて、さらに丁寧に歌う。

神社の境内に、濃密な音楽の異空間が広がる。

人々の気持ちがステンドグラスの光のように絡み合い、音と混じり合い、ただ柔らかな繭のなかにいるようだ。

あまりの気持ちよさに、顔を見上げると、まだ少し青みの残る夜空に、二羽の黒い影が飛んで行った。

この風景も、人々の笑顔も、昼間の暑さの残る微風も、追いかけっこをする幼児も、すべて音楽の一部だと直感した。

音の流れに身を委ねていたら、息子くんが冷たいビールを持ってきてくれた。

「来てたんだ?」
「うん。ママが飲めってさ」

瓶は青く冷えていて、ベルギービール独特の香りが、口いっぱいに広がった。

「図書館行かないでいいの?」
「うん?ま、いいや。今日はここでいいや」

瓶には、まだ半分以上、幸せが残っている。

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