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Archive for 2013年11月

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秋はスポーツの季節だ。息子くんもサッカーの試合が続き、ゆっくりと虫を観察する時間が取れなかった。

週末のある日、ふと思い出したようにミニトマトのパックを見ると叫んだ。

「ママっ!さなぎになってる!」

円筒形の容器の側面に茶色のさなぎがぶら下がっていた。

「知らなかったー。最近見てなかったからなー」

また床に腹ばいになって、さなぎに見とれていた。

息子くんはここのところサッカーで悩んでいる。思ったプレイができなくて苦しんでるのだ。

小学生の高学年は、身体も心も大きく変化する。息子くんもこの夏、身長が3センチ伸びた。胸板も厚くなり、下半身もがっちりしてきた。

急激に大きくなったせいか、身体のバランスが変わり、いままでできてたプレイができなくなってしまった。上手くいかない焦りが、さらなる焦りを呼び、すっかり自信をなくしてしまった。

もちろん対人競技だから、相手だって成長している。チームメイトもライバルも、一日と同じ姿ではない。小さな尺度ではあるけど、みんな日々確実に成長しているのだ。そのどんぐりの背比べのなかで、息子くんはもがいている。

ぼんやりとさなぎを見ながら息子くんがぼつりと言った。

「幼虫って、みんなさなぎになるのかな?」

ママが答える。

「なるんじゃない?ふつう」
「さなぎになれない幼虫もいるのかな?」
「さあ?」

ママが答えに困る。

「パパが言ってたけど、いまさなぎのなかどろどろなんだって。新しい体を作るために一度溶けるんだって」
「虫も大人になるのは大変なのね」
「痛いのかな?」
「さあねー、でも人間だって成長するのは大変だよ。とくに心はね」
「ふーん」
「ご飯を食べれば身体は大きくなるけど、人間には心があるからね。心はつらいことや、嬉しいことが栄養になるの。つらい事の後には、必ずいい事があるよ。その繰り返しで心は大きくなるの」
「ママ?」
「なに?」
「虫にも心あると思う?」

ママの洗濯物をたたむ手が止まった。

「難しい質問ね。ファーブルのおじさんにも聞いてみなきゃだね。でもママはあると思うな」
「おれも、あると思うんだよね」

息子くんはミニトマトのパックを持ち上げて言った。

「ママ、おれ明日から移動教室で下田じゃん。もしさなぎが羽化したら蓋開けていいからね。それでさ、羽壊れないようにして窓から外に離してあげていいから」
「君は見なくていいの?」
「いや、見たいけどさ。間に合わなかったらしょうがないや。キアゲハだって、せっかく羽化したのに外の世界見れなかったらかわいそうじゃん。携帯で写真だけ撮っといて」

息子くんは、小学生高学年男子なりのひりひりした皮膚感覚で、現実の世界にぶつかり学んでいる。

目に入るもの、手に触れるものすべてが、彼を成長させる。

彼の知的好奇心を刺激して止まない昆虫たちの世界は、彼になにを学ばせようとしているのか?どこに連れていこうとしているのか?

最近ぼんやり思う。

おれの記憶に日々刻まれる息子くんの姿は、変化を続ける彼の残像なんだろうと。彼は親の想像を超えるスピードで成長している。

おれと妻がかわいいと撫でているのは、脱皮した息子くんの抜け殻だ。あいつはボールや虫を追いかけながら、いつもおれらの半歩先にいる。

気がついたら、羽化して飛び立ってしまうんだろう。

我が家の大きなさなぎくんは、ランドセルから旅のしおりを出して、荷造りをはじめた。

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天気予報が聞きなれない言葉を繰り返していた。

「過去に経験のないほどの豪雨となります。警報が出たらすみやかに命を守る行動を取って下さい」

台風26号が関東地方に近づいている。西日本では洪水や浸水など被害が出はじめていた。

息子くんは直ちに虫たちの命を守る行動を取った。玄関の外に置いてあったコオロギやカマキリ、コクワガタの飼育ケースを部屋の中に入れた。台風が通過するまでとママに交渉したようだ。ただでさえ生きもののいるリビングに、虫たちの難民キャンプがあらわれた。

明け方には台風が通過するとの予報通り、土砂降りの雨音に目が覚めた。横殴りの雨がガラスをたたく。風圧で窓を揺さぶられる。雑木林の大きな木や竹林が、強風に煽られ、豪雨に枝葉を揉まれる。虫たちを入れておいてよかった。息子くんの判断は正しかった。

いつもより早く息子くんが起きてきた。

「台風来た?」
「これからすごいのが来るよ」

窓から外を見ようとする。

「全然見えないじゃん」
「土砂降りだからね」
「会社行けるの?」
「行くしかないな。お前学校は?」
「休み」

ソファーに座った息子くんは、さっそく図鑑のページをめくりながら、虫の世界に行ってしまった。寝起きのすっきりした頭に、挿し絵の里山の風景が広がる。来年の春どこで何を採るかイメージトレーニングでもしているのだろう。

ネットで読んだ聞きかじりの話をしてみた。

「さなぎってさあ」

図鑑から顔を上げた。虫の話なので乗ってきた。

「なかで何が起こってると思う?」
「起こってるって?」
「幼虫が殻みたいに固くなって、破って出てくるときは、形が全然変わってるじゃん?足とか羽が生えててさ」
「そだね」
「なかでどうやって羽付けるの?」

息子くんは無言で考えている。かなり具体的に想像しているようだ。

「角みたいに生えてくるんだよ」
「あんなに大きいものが?」
「わかんないよ」
「パパも詳しいことわかんないけど、ネットで調べたらね、一度溶けるらしいよ」
「溶ける?」
「そう。例えばお前が幼虫だとするじゃん。ある日、寝袋に入るんだよ。そしたら眠くなるの。少ししたらその中で溶けちゃうんだよ」
「…」
「腕とか、足とか、顔とかも溶けちゃう。内臓や骨もドロドロに」
「目玉とか、脳も?」
「そう。で、お前はドロドロのスープみたいになる」
「生きてるの?」
「たぶん生きてるんだろうな」
「それで?」
「溶けた液はもともと体を作っていたものだから、あるきっかけでまた固まり始める。それが新しい体になる」
「きっかけって?」
「ディーエヌエーかな、よくわかんないけど」
「グロくね?」
「分子レベルでレゴを組み直すようなもんだろうね」
「本当なのその話?」
「わかんない。ファーブルのおじさんに聞いてみてよ。おれも知りたい」

息子くんは怪訝な顔をして、ミニトマトのパックを覗きこんだ。

「ほんとかなー、信じられないな。幼虫が溶けるのか?」

もうすぐママが起きてくる。
ママは今も布団の中で溶けたままだ。

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幼虫は体に似合わず葉っぱをもしゃもしゃ食べる。朝、雑木林からアシタバの葉を取ってきて入れておくと、帰るころには破片になっている。息子くんはまめに葉っぱをむしりに行く。実によく世話をする。我が家の生きもの係りだ。

幼虫は相変わらずド派手な服を着て、ミニトマトのパックのなかをもぞもぞしている。

幼虫が呼吸できないからと、おれが蓋に穴を開けようとしたら、断固として止められた。

「空気吸えなくて死んじゃうよ」
「死なないよ!大丈夫なんだよ、昆虫は!」
「だって昆虫だって空気吸うだろう。窒息しちゃうよ」
「大丈夫だって。虫はそんなに酸素吸わないのっ!」
「なんでそんなこと知ってる?」
「ファーブルのおじさんが言ってたのっ!」

最近は図鑑や本などの知識だけでなく、経験した人でないと知らないような知恵が付いてきた。

この前も家に帰ったら、テーブルの上で蝶に砂糖水を吸わせていた。器用に羽も触らず、そっと胸を挟み、爪楊枝で口の蔓巻きストローを伸ばし、甘い水のありかを教えていた。

「おまえ、どこでそんな技教わってきたの?」
「ファーブルの採集教室」

標本作りから始まり、採集、飼育、観察など、昆虫の魅力を味わい尽くすノウハウは、ファーブルのおじさんたちから教えてもらっていた。

子供より子供の目をした、捕虫網を持ったおじさんたちが、息子くんの生きた教科書だった。

今朝も起きて最初にしたのがアカハライモリとカメの世話。水槽のカージナルテトラに餌をやると、裏の雑木林に葉っぱを取りに行く。

小さな生き物たちの世話が終わってから、自分の顔を洗い、朝食を取る。あっという間に登校時間だ。今日は土曜日だけど学校がある日だ。

「行ってきまーす。パパっ、帰ってきたら石神井公園行くからね。準備しておいてね!」

ドアが閉まると、静寂が訪れる。

「あの人も好きだねー。なーにが、楽しいんだか?」

笑いながら妻が言う。ママが虫嫌いの女性でなくてよかったな。

気がつけばうちの部屋は、飼育ケースや水槽、餌や道具が散らかりペットショップのようだ。

「さあ、掃除始めるよ。洗濯するから寝間着、着替えてね」

快晴の土曜日。気温も暖かい。

窓を開けたら空が真っ青で、蝶がひらひら飛んでいた。虫捕り日和だ。

床に置いてあったミニトマトの容器をテーブルに移動する。このままでは掃除機のじゃまになる。

透明な小さな空間の中で、キアゲハの幼虫は何かを探しているようだ。

蓋を開けてよく見てみる。

近くで見ると鮮やかな模様にあらためて驚く。どうしてこんな色、柄になるのだろうか?不思議だな。幼虫に顔を近づけてみて、少しだけ息子くんの気持ちがわかった気がした。

「それにしても、かわいいのかね?こんな毛虫くんが」

人差し指で幼虫をつついてみる。

幼虫は身震いをして、おれを睨みつけ、オレンジのツノを出した。

生意気に威嚇してるのだ。

部屋の中に、野性味の強い匂いが漂った。

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息子くんが朝のジョギングから帰ってきた。暑かった夏もすっかり落ちついて、早朝は秋の肌寒ささえ感じられた。

いつもならマンションの駐輪場からピンポンを押して入ってくるのだが、今日はなかなか部屋に戻ってこない。

部屋の外に出て、三階の踊り場から駐輪場を見下ろしてみる。

いた。

隣の雑木林からフェンスをはみ出したアシタバの葉に貼り付いている。

「何やってるの?」

上から声をかけてみた。

「キアゲハの幼虫!」

興奮気味に答える息子くん。たぶん心拍が上がってるのは、走ったからではなく幼虫のせいだ。

「パパ、ミニトマトのパック持ってきて!」

結構焦ってる。

部屋に戻って妻に話すと、これでしょ、と呆れ顔だ。スーパーでミニトマトがパックされてる、丸い蓋つきの透明な入れ物を渡された。最近、我が家の夕食にやたらミニトマトが出たのはこのせいか。

階段を降り、息子くんに手渡した。

「何に使うの?」
「幼虫入れんの」

いきなり掴んで入れるのかと思ったら、少し離れたところで葉っぱをむしり取り、容器に入れてから、今度は幼虫が這っている葉っぱを枝ごとむしり、入れて蓋をした。

ホッとした表情の息子くん。まるで不発弾の処理でもしてるような緊張感だ。

部屋に戻ると蓋を開けて観察しはじめる。

「かわいいねーっ」と頬ずりしそうな勢いだ。

幼虫は黄緑と黒のストライプに、黄色とオレンジの鮮やかな点が並ぶ。ド派手な衣装をまとった原宿のストリートキッズのようだ。

「アゲハって、幼虫もきれいだね」
「キアゲハっ!アゲハじゃないの!」
「アゲハとキアゲハって違うの?」
「違うよ!アシタバに来るのがキアゲハで、山椒とか柑橘類がアゲハ」

小数点の割り算は面倒くさがってやらないくせに、生き物の事になるとやたら詳しい。

「なんでそんなこと知ってるの?」
「図鑑に載ってるよ」

答えるのも面倒という感じ。もうおれの言う事なんか聞いちゃいない。

「さんれーちゅーかな?早くサナギにならないかなー」

腹ばいになって幼虫を眺めている息子くん。今日は平日。学校があるのを覚えていてくれてるといいのだが。

また我が家に新しい家族が増えてしまった。

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